これまで、裁量労働制が生まれた背景、現行の裁量労働制について整理しました。では、今回議論されている裁量労働制の問題は何なのでしょうか?
今回の改正趣旨は、企画業務型裁量労働制の適用拡大で、
①事業運営についてPDCAマネジメントサイクルをおこなう業務
②法人運営について、企画、立案、調査、分析を主としておこない、その成果により商品・サービスをその法人専用に開発し、提案する業務
の二つを加えることです。
世間的には、法人営業職に拡大と云われていますが・・・
改正要綱を読む限りでは、かなり限定的です。法人向けの営業といっても、主は調査分析とオーダーメイド商品開発の業務であって、既成商品、汎用商品の組み合わせによる提案業務や営業自体が主である業務には適用できません。
正しくこの定義に該当する労働者が果たしてどれぐらいいるものなのかという素朴な疑問が生じるところです。
ところが、先日報道された某大手不動産会社の例では、社員1,900名のうち600名もの社員に企画業務型裁量労働制を適用していて、実際過労死する社員まで出ていたわけです。
この改正を先取り的に拡大解釈して適用していたようですね。
このように裁量労働制が適用できる業務を拡大解釈して適用されている現実があり、さらに、みなし労働時間と実際の労働時間の乖離、健康確保や苦情申し立措置制度の機能不全、といった点が問題視されているのですね。
また、
先に述べたとおり、裁量労働制を適用するためには労働基準監督署への届出が必須です。従って、行政側が裁量労働をおこなっている企業を把握することは可能なはずであり、よく分からない統計データを持ち出したことも理解し難いといえます。
より本質的には、
確かに費やした労働時間と付加価値が必ずしも比例しない仕事の割合は増えています。
一方、時間にかかわらず生み出された成果物に対してのみ対価を支払う契約方法はあり、それは「請負」です。
実は、専門業務型裁量労働、企画業務型裁量労働で認められている業務の多くが「請負」でもおこなわれている業務なのです。
労働と請負の、いわば中間的働き方として「裁量労働制」を考えるとすると、請負に近い自由を得ながら労働者としての保護も受ける良いとこ取りが可能なら、労働者としても魅力的なはずです。
労働者に裁量を付与することだけで付加価値が向上するなら企業も大喜びです。
ところが、実際には請負ほどの裁量も自由も無く、労働者としての保護に欠け、付加価値も上がらない実態だと批判されているのですね。
これを裁量労働法制の欠陥と考えるか、運用する企業側の問題と考えるか、
議論が深まることを期待して、働き方改革関連法案の推移を見守りたいと思います。